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Mother's Day2024 エッセイ②



タイトル:三輪車とパンジーと小石と飛行機


執筆者:かたつむり


🎙️朗読はこちら(朗読:minori)

「三輪車とパンジーと小石と飛行機」/かたつむり

さながら競歩選手のような形相だと思う。


三輪車を押す時の私のことだ。友人がくれたそれはハーネス付きで、生後10カ月から使うことができる。


私は毎朝この三輪車で息子をこども園まで連れて行き、息子を降ろして自宅へ戻る。仕事に行く前にできるだけ家事を済ませたい。その気持ちが私を早足にさせる。


家に着くと寝室に掃除機をかけ、居間に散らかったクレヨンを拾い、絵本を本棚に押し込む。朝食の食器を洗い終えると、時計を確認してパソコンを開く。


ワーキングマザーである私は、通信制大学で学ぶ学生でもある。キーボードを叩いていると突進してくる息子がいる時、パソコンは使えない。


そうこうしているうちに、家を出る時間となった。


我が子をこども園に預けて私が仕事に向かう先は、保育園だ。


「母になって間もない私が、息子を他人に預けて他人の子どもと過ごす」という状況はやや不思議に思えたけど、すぐに慣れた。


園児の言動は新鮮で愛らしくておもしろい。子どもの見ている世界をもっと知りたくて、働き始めてほどなくして保育士試験の受験を決めた。


けれども保育の仕事に魅力を感じる一方で、勤務先の保育のあり方に少しずつ違和感を覚えているのも事実だった。


給食の時間、先生が泣く子の口にスプーンを入れるのを初めて見た時、保育士ではない私にはわからない理由があるのだろうと思うことにした。


別の日に同じことをされた子が吐いてしまった時、私までお腹がぎゅっとなったけど、私は担任でも副担任でもなく、無資格の補助者だった。


でも、昼寝が始まった暗い部屋でひとり泣きながら給食を食べる子を見た時、もう黙ってはいられなかった。


保育園のやり方について、園長に相談した。後日、役員との話し合いの場が持たれた。私と同じく保育士の資格を持たない彼は、私がいかに保育について無知であるかを延々と語り、そして言った。


「職場の和を乱すのを止めなければ、これ以上あなたは子どもと関わることができない」


一方的な「話し合い」は4時間半にも及んだ。


少し前の私だったら落ち込んでいたかもしれない。だけど、私が泣いたのはその晩だけだった。


翌日、外部の窓口に勤務先の保育について報告すると、それからひと月の間に開業届を出し、新しく始める事業のためのSNSのアカウントを開設した。


頭にあったのは、保育園の子どもたちの姿だ。英語の絵本を読み語りした時、キラキラした目で聞いてくれた。英語の歌に合わせて踊った時は、弾ける笑顔で小さな身体を思い切り動かしてくれた。


私は保育士資格は持っていないけど、英検1級は持っている。


自分らしく働いて良いことは、この団体で学んでいた。


自宅でのレッスン準備が仕事のメインとなった今、私は亀のペースで三輪車を押している。


息子と手をつなぎ、ほんの1kmの距離を40分かけて歩くこともある。


道端に咲くパンジーの色を言い合い、なんでもない形の小石を拾い、水たまりがあったら、そっと手を付けて底の泥に触れる。轟音が聞こえた時は、飛行機を探すために立ち止まって空を見上げる。


こども園までの道のりは、私たちの豊かな時間だ。


仕事が軌道に乗るのは、きっともう少し先。でも、息子を急かさずに歩けたらそれでいい。


保育園で泣きながら給食に向き合っていた子のことは、今も時々思い出す。電話で話を聞いてくれた窓口の女性を信じるほかないけど、もう一度会えたらぎゅっと抱きしめたい。


そんな思いで目の前の息子を、ぎゅっと抱きしめる。


くすぐると身をよじって笑ってくれる日はいつまで続くだろう。


もうすぐ息子は2歳になる。




Mother's Dayキャンペーン2024ご寄付のお願い
最後までお読み頂きありがとうございました。このエッセイは、寄付月間キャンペーン2024のために、シングルマザーのかたつむりさんが執筆しました。NPO法人シングルマザーズシスターフッドは、シングルマザーの心とからだの健康とエンパワメントを支援する団体です。ご寄付は、「シングルマザーのセルフケア講座」の運営費として大切に使わせていただきます。ご寄付はこちらの寄付ページで受け付けております。


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2 Comments


「私は保育士資格は持っていないけど、英検1級は持っている。」 自分の得意なこと、自分の出来ることをしていけばいいと自分は思っています。

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tokyo
tokyo
May 14

元気を貰い、勇気が湧いてきました。かたつむりさんのの決断を応援します!

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